vol.15 ●小さな小さなルームメイト
ニューヨークには古いアパートが多い。
もちろんハーレムも同じ。'20年代に生まれたハーレムルネッサンス時代に建てられた
白人向けの美しいアパートも数多く残っていて、築100年なんてざらだ
(もともとハーレムは、裕福な白人達に向けて作られた街。ここで日々ジャズやバッブが演奏され、
着飾った紳士淑女がハーレムの夜と繁栄を作り上げていた)。
冬は暖房がガンガンにきいていて、半袖でだってすごせる快適さ。
そんな素晴らしい環境だけに、ちいさなルームメートがちょこちょこ顔をのぞかせる。
ある日私が外から帰ってきたら、ルームメイトのひとりであるアイちゃんが、パニックになっている。
「Missieさぁ〜ん、助けて!!」
と叫びながら、奥の部屋からリビングへ飛び出してきた。
部屋に強盗でも入ったか、何かあったのか、やばいことでも起こったか、
ドキドキしながら「どうしたの?」ときくと・・・
「あたしがリビングにいると、
で、出たんです!! 」
「えっ、出たって何が? もしかしてお化け!?」
そういえば以前から、ほかのルームメイトが、
「眠っていたら顔を覗き込んでいる男女の霊がいて、
眠れない」といっていたので、それがいよいよ出たか!と思ったら・・・
「ううん、ネズミ!きゃ〜!」
そうなんです。
ニューヨークで暮らすということは、ネズミと共存するということ。
古いアパートにはたいがい彼らが住んでいるし、人を怖がらないので、
すぐ近くまでやってきて、人の顔色をうかがったりするそうなのです。
どうもその夜、アイちゃんがリピングにいると、台所から玄関に向かって小さな黒いものが
タタタッ〜ッと走り抜けたそうで、あれ?と思っていると、その逆を同じものが走りぬけ、
よくよく見てみると、小さなネズミだったのだそう。
そのまま彼女は奥の部屋に駆け込んで、誰かが帰ってくるまでひとり恐怖におびえていたのだった。
私は実際にまだネズミと遭遇していなくて、ワクワクして話を聞いていたのだけど、
その夜、
とうとう出くわしてしまった。
アイちゃんは、その日も大好きなクラブへお出かけ。
ほかの子たちもそれぞれお出かけで、一晩ホントにひとり暮らしをすることになった。
ハーレム一人暮らし。いいね〜、と独り言を言いながら、リビングで明日の予定を立てていると・・・
タタタタッッ〜。
黒い小さなものがリビングから玄関に向かって走った。
あ!これは!もしかして!! キタッ!
静かな静かなハーレムの冬の夜。
小さなルームメイトが私に挨拶をしにやってきた!